福岡高等裁判所 昭和38年(ネ)747号 判決 1966年9月02日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用中控訴人岡本シズヱ、同甲斐光代、同岡本征一、同岡本紀久男、同岡本久子、同岡本和代と被控訴人らとの間に生じた分は同控訴人六名の負担とし、控訴人武藤幸治と被控訴人らとの間に生じた分は同控訴人の負担とする。
事実
控訴人(但し、補助参加人を除く)ら代理人は「原判決を取り消す。被控訴人(但し、当事者参加人を除く)らは控訴人(但し、補助参加人を除く)らに対し原判決末尾添付の別紙目録記載の土地について所有権移転登記手続をせよ。被控訴人(当事者参加人)の請求を棄却する。訴訟費用は差戻前の第一、二審および差戻後の第一、二審を通じ、控訴人(但し、補助参加人を除く)らと被控訴人(但し、当事者参加人を除く)らとの間に生じた分は、同被控訴人らの負担とし、控訴人(但し、補助参加人を除く)らと被控訴人(当事者参加人)との間に生じた分は、同被控訴人の負担とする。」との判決を求め、控訴人(補助参加人)は「原判決を取り消す。被控訴人(但し、当事者参加人を除く)らは控訴人(但し、補助参加人を除く)らに対し、前記土地について所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人兼同岡本寿郎法定代理人岡本ヨシヱならびに被控訴人(当事者参加人)代理人は、いずれも「本件控訴を棄却する。」との判決を求め、被控訴人岡本秀子、同岡本千恵子、同荒金テル子はいずれも適式の呼出しを受けながら、当審各口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面を提出しない。
当事者双方の主張と証拠関係は、左記のほか、原判決事実摘示(但し、原判決一七枚目表九行目に「野田戻吉」とあるのは「野田房吉」の誤記であるから、これを訂正する)と同一であるから、これをここに引用する。
一、控訴人(但し、補助参加人を除く)ら代理人において、
(一)、従前主張のように、本件土地は訴外亡向ケサ名義により競落されたが、それは訴外亡岡本友太郎の負債整理委員をしていた訴外亡岡本栄三郎、同岡本嘉四郎らが協議のうえ、右ケサ名義を勝手に借りて競落したものであつて、友太郎がケサの承諾を得てケサ名義により競落したものではない。すなわち、友太郎とケサとの間には、本件土地の所有権をケサに移転するという意思表示ないし法律行為は全く存在しておらず、右事実は差戻前の第一審証人村上六太郎の証言に徴しても明らかである、と述べた。
(二)、立証(省略)
二、被控訴人(当事者参加人)代理人において、
(一)、控訴人(但し、補助参加人を除く)ら代理人の右主張事実を否認する。
(二)、本件土地については従前主張の抵当権実行による競売手続が開始されるや、訴外亡向ケサは自己のために本件土地を競落して所有権を取得し、その所有権取得登記を受けたものである。仮りにそうでないとしても、従前主張のとおり訴外岡本栄三郎は右ケサの名義を借りて本件土地を競落し、大正一五年三月二二日自ら競落代金を納入して所有権を取得したが、右ケサ名義の所有権取得登記を経由したものである、と述べ、
(三)、甲第五一号証、同第五二号証の成立を認める、と答えた。
理由
当裁判所も、控訴人(但し、補助参加人を除く)らの本訴請求を失当として棄却し、被控訴人(当事者参加人)の本訴請求を正当として認容すべきものと判断するのであつて、その理由は、左記の訂正補足のほか、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。
一、原判決二〇枚目表五行目に「月金一二銭」とあるのを、「月金一〇銭」に、同二八枚目表一行目に「向鶴治」とあるのを、「向サケ」にそれぞれ訂正する。
二、控訴人(但し、補助参加人を除く)ら代理人は、当審において、訴外亡岡本友太郎と訴外亡向ケサとの間には、本件土地の所有権を移転するという意思表示ないし法律行為は全く存在しなかつた旨主張し、差戻前の第一審における証人村上六太郎の証言では、右主張に副う如く「右ケサが本件土地のうちの田一反二歩が自己の所有名義に登記されていることは知らないし、自分は買いたくとも資力がない旨を同証人に話していた」との証言がなされているが、右証言部分は成立に争いのない丙第四八号証(差戻前の第二審における証人村上六太郎の「自分は本件土地に関することは何にも知らない」旨の証言)および当裁判所の引用する原判決理由説示中の本件土地が競売に付せられた経緯、訴外亡岡本友太郎と同人の実弟たる訴外亡岡本栄三郎ならびに友太郎の次男たる訴外亡岡本嘉四郎らが協議のうえ、栄三郎が友太郎の依頼に基づき同人の負債整理の事務を主宰した事情、栄三郎の妻の実母がケサに当る身分関係、ケサも連帯借用主の一員となつて本件土地の競落代金調達をした事情などに比照して、にわかに措信することができず、他に右主張を肯認するに足る証拠がないので、右主張は採用することができない。さらにまた、甲第五一号証、同第五二号証、当審証人山泉利重の証言によつては、未だ原判決の理由説示を覆えして控訴人らの主張を採用すべき証拠とするに足らず、却つて右山泉証言は被控訴人(当事者参加人)が本件土地を訴外亡向鶴治より善意で買受けたとの原判決理由の事実認定を補強するものである。
三、被控訴人(当事者参加人)代理人は、当審において、本件土地の競売に当り、訴外亡向ケサは自己のために本件土地を競落して所有権を取得し、その所有権移転登記を受けた旨主張するが、未だ右主張を肯認するに足りる証拠がないので、右主張は採用することができない。
よつて、原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却すべく、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条第九四条第八九条第九三条を適用して主文のように判決する。